地球環境政治

パリ協定の取説(1):パリ協定とは何か?

パリ協定は、国際社会が気候変動問題に取り組むために作った国際条約です。前文と29の条文からなるこの条約は、2015年12月に、フランス・パリで開催されたCOP21という会議で採択されたため、「パリ」協定(Paris Agreement)という名前が付けられました。なお、一般的には、気候変動は地球温暖化(Global Warming)と呼ばれることの方が多いですが、このサイトではちょっとこだわって気候変動(Climate Change)という言葉をなるべく使いたいと思います。

気候変動問題について作られた条約としては、すでに国連気候変動枠組条約(1992年採択)、京都議定書(1997年採択)がありますが、パリ協定は特に画期的な一歩だったと評価されています。私自身も、それなりに長い間、国連での交渉を見守ってきましたが、ほんとによくこれ作れたなと思う点がいくつかあります。

今回はその大きな特徴である6つについて、それぞれ簡単に解説していきたいと思います。

1.ほぼ全ての国が参加している

パリ協定は、現在(2020年5月6日)までに、世界の195カ国が署名し、189カ国が正式に批准して締約国となっている条約です。日本が承認している国の数は世界で196カ国(日本含む)だそうですから、ほぼ世界の全ての国が参加しているといっていいでしょう。

実はこれ、とても大事なことです。

国際社会には世界政府も国会もないため、法律、つまりルールを作るところがありません。そのような中でもルールを作る手段が国際条約なわけですが、国際条約への参加は基本的に各国の自由で、強制的に入れられるということはありません。

パリ協定にほぼ全ての国々が参加しているという事実は、ほぼ全ての国が「自らがパリ協定のルールに縛られることに合意している」、つまり、「パリ協定はほぼ国際社会共通のルールとなっている」ということを意味しているのです。

2.先進国でも途上国でも、全ての国が何らかの目標・対策を持つことになっている

パリ協定の下では、参加する全ての国(締約国)が、気候変動対策について何らかの目標や対策を誓約する仕組みになっています。

具体的には、「NDC(国別目標)」という名の文書を、条約事務局に提出することが全ての締約国に義務づけられています。NDCは、Nationally Determined Contributions(国毎に決められた貢献)の略ですが、このヘンテコな名前になったことにも理由があり、また稿を改めて説明したいと思います。全ての締約国は、そのNDCの中に、自分たちで自主的・独自に決めた目標や対策などの情報を書き込むことになっています。具体的には、気候変動の原因である温室効果ガスの排出量の削減目標などを書くわけです。現在、多くの国は、2030年に向けた削減目標や対策を書いており、日本の目標は「2030年度までに2013年度比で26%の温室効果ガス排出量を削減する」というものです。

ここでのポイントは、「全ての」締約国にNDC提出が義務づけられているという点です。1997年に作られた京都議定書では、アメリカ、EU、日本、オーストラリアなどの先進国のみに、削減目標を掲げて守るという義務が課せられていました。パリ協定では、先進国のみではなく、中国、インドなどの新興の途上国も含めた全ての国々にNDC提出が義務化されているのです。これが、パリ協定が画期的であると言われる主要な理由の1つです。

ただし、そのかわりに、京都議定書では削減目標の数字を含めて国際交渉の中で決められましたが、パリ協定では、NDCの中身は各締約国が自分たちの国内プロセスで決めることになっており、より各国の裁量が大きくなっています。

そして、実際にその目標を達成できたかどうかは、お互いが達成状況を報告しあうことで相互的に監視していく体制がとっr

3.「気温上昇を2℃より充分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」

パリ協定には、その基本的な目的というのが第2条に定められています。その中でも、最も有名なものが「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比較して2℃より充分に低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」というものです。

気候変動の中心的な指標として、世界の平均気温上昇がありますが、最新の科学的知見によれば、産業革命前と比較してすでに1.1℃の上昇があり、今後、何もしなければ約4℃の上昇が見込まれています。この上昇幅を抑える水準を、大目標としてパリ協定は設定しているのです。

現在、各国が掲げている目標やら対策を加味しても、平均気温上昇は3℃を超えてしまう可能性が高いと予測されています。そのような中にあって「2℃より充分低く抑える」ことを目指すのはなかなかに大変なことです。

ましてや「1.5℃に抑える」というのは、それに輪をかけて大変なことで、一部の人たちはもう無理だと言います。実は、パリ協定が採択された2015年当時からそういう声はけっこう強かったので、1.5℃という文言が入ったこと自体、結構驚きでした。この難しさを反映して、「1.5℃」という目標の位置づけは、「努力を追求する」という表現からも分かる通り努力目標のような位置づけになっています。

しかしここに私は国際社会の良心が表れていると思います。「1.5℃」を入れることを主張していたのは、最も大きな影響を受ける島嶼国や後発開発途上国でした。それらの国々からすれば「すでに起きている1℃の上昇でも被害は大きい。2℃は耐えられない」というわけです。

4.脱炭素化目指す

気温上昇の抑制目標に加えて、パリ協定ではそれを達成するための道筋として、長期目標というのが定められています。

5.支援を出す

6.影響にも対応する